WordPress@SAKAEの書斎

まったりゆったりうっかりをモットーにヽ(´ー`)ノ

ライトノベル・小説

【二次創作】ルルヘキ姉弟はぐれ旅(全5本)

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初稿:2005/05/31
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   ルルヘキ姉弟はぐれ旅 タルットカード
 
「ヘキレキ! どこにいるの? ジュノの占い屋に来るのよすぐに!」
 姉のルルカルにテルでたたき起こされたのは、サンドリアのモグハウスでうたた寝をしているときだった。
「あんた、タルットカード、まだクリアしてなかったでしょ? 交換してくれるって人がいるからすぐにきてちょうだい」
「俺、今サンドなんだけど」
「もう話はつけちゃったからさっさとくる! ○○って人だから、あとはあんたに任せたわよ!」
 身勝手な姉である。
 仕方ないので、着の身着のままで飛空挺乗り場へ向かいつつ、○○氏にテルで連絡を取る。
「すみません、ちょうど飛空挺が出てしまったんで、10分ほど待ってください」
「えぇ~、パーティーの約束があるのに」
 平謝りし、なんとか待ってもらえるように頼み込んだ。
「だいたいあんた、なんでジュノをホームポイントにしないのよ。デジョン一発で戻れるのに」
 姉はこういうが、ヘキレキはジュノのあのゴミゴミとした喧噪が苦手なのだ。
 だいたい俺は毎日を釣りですごせればそれで良かったんだ。
 それをあの姉に、「世界を股にかけて釣りをしたいのなら、それなりのレベルが必要よ!」とかそそのかされて、レベル64まで上げたは良いが、行けないエリアは山ほどあるではないか。
 そもそも最高レベルとされる75にしたところで、ミッションを進めていない彼には同じことだ。
 太公望の釣り竿を手に入れたときもそうだ。「あんたの物はあたしの物」とジャイアニズム全開で奪われてしまった。あれをもう一本手に入れるのに、どれほど苦労したと思ってるんだ!
 ぶつぶつつぶやいてるうちに、飛空挺が来た。その旨○○氏に伝え、ジュノへ向かった。
 ジュノへは滞りなく到着し、何度も平謝りしながら、なんとかタルットカードをそろえることができた。
「よし、それじゃ相性占いをしてもらうわよ」
「姉さんと?」
「あんたとの相性はどんなもんか、前から気になってたのよ」
 そのためにわざわざテルまでしてきたのか。シャントット似の豪傑タルタルな姉だが、もしかして可愛いとこもあるのか?
 で、占いの結果だが──
「……ぼちぼちとな」
「ぼちぼちでんなー」
 まあそんなもんだろう。
「てゆーか、姉さんはすでにタルットカードクリアしてるんだから、そっちで占ってもらえば」
「…………」
「…………」
「ああっ」
 たっぷり10秒考え込み、ルルカルはポンと柏手【かしわで】を打った。
 前言撤回。こんなだから「ボンクラ王」の異名をつけられるのだ。
 
 ヘキレキの姉に振り回される日々は明日も続く。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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初稿:2005/06/03
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   ルルヘキ姉弟はぐれ旅 にんともかんとも
 
「ほらほら、次はあの羊よ!」
「あれ、つよなんだけど」
「やばけりゃケアルしたげるから! さっさと行く!」
 姉に背中を蹴飛ばされ、ヘキレキはやむなく羊へ特攻を仕掛けた。
 「忍者を上げなさい」とルルカルに突如と言い渡されたのがつい先日のこと。
 以来、ヘキレキは姉に見守られ、否、監視されつつひたすらレベル上げを行っているのだ。
 きついときにはケアルをかけてもらえることもあり、わずか二日(ヴァナ時間)でレベル1から7まで上がった。
「忍者を上げておけばソロ活動がずいぶん楽になるからね。目指すはレベル37よ!」
 いや、俺はソロ活動は別に。その辺でまったり釣りができればそれで。
 というヘキレキのぼやきは姉には届かない。
 と、相手にしていた羊が大口を開けた。
 やばい! あれはシープソングだ。
 ごわあっ。羊のうめき声を聞き、一瞬意識が揺らぐ。シープソングには睡眠効果があるためだ。
 しかし、敵の攻撃を受け、ヘキレキは我を取り戻した。
「姉さん、ケアルをってレベル75が寝るなあああぁぁぁ!」
 回復魔法を求めて後ろに声をかけ、ヘキレキは絶叫を上げた。
 シープソングをまともに受け、ルルカルは突っ立ったまま鼻ちょうちんを流していた。
 レベル75が最弱羊の歌で寝るか、おい!?
 敵のヒットポイントは半分以上削ってる。なんとか押し切るしかない。ヘキレキは忍者刀を構え直す。
 数分後、ぎりぎりだが、なんとか敵を倒すことができた。たまらず腰を下ろして休憩する。
 ルルカルはいまだ熟睡中だ。最弱羊の子守歌がこうまで徹底的に入るとは、相変わらずのボンクラっぷりだ。ケアルの一発でもかければ目を覚ますのだが、あいにく現在のヘキレキはケアルを使えない。
 まあしかし、こうやっておとなしく寝ている分には可愛い姉御なのだが。ヘキレキはため息をついた。
 ルルカルは、この冒険の先にいったい何を見ているのだろう? 姉は、闇王を倒し、カムラナートすらも倒した。多くの冒険者はその後も新たなミッションや目標を見つけ、精進している。
 しかし姉はヘキレキ同様、他人と組んで行動するのが苦手なはずだ。そのせいもあって、一時は冒険者家業から身を引いた時期もあった。それをあえてこの冒険の世界へ戻ってきた理由は何なのだろう?
「ヘキレキ……しっかりケアルしなさいよ……むにゃ」
 このタルは、寝ててもレベル上げかい。ヘキレキはもう一度ため息をついた。
 結局、ルルカルはヴァナ・ディールというこの世界が好きなのだろう。好きだからこそ、嫌なところが目について離れることもあり、しかし好きだからこそ、戻ってきてしまう。
 ルルカルもヘキレキも、気を張らずにつきあえるのは身内の一人だけである。だからこそ、冒険のパートナーたり得るようにしたいのだろう。
 ふう。もうちょい頑張りますか。考えをまとめたヘキレキは腰を上げ──
 ごんっ、突如の後頭部への衝撃に、前へつんのめった。
 ぐるる、といううなり声。姉のいびきでは決してない。
 オークだ。しかもモンクタイプのハゲオーク。敵は両の拳を振り上げ──
「だああっ!」
 一瞬早くヘキレキは逃げ出した。
「馬鹿姉貴、さっさと起きろおおおぉぉぉ!」
 ヘキレキの叫びもむなしく、ルルカルの起きる気配は一向に無い。
 姉の起きるのが先か、ヘキレキの体力が尽きるのが先か。
 ルルカルを中心にグルグル追いかけっこ、そしてヘキレキの苦悩は果てしなく続く。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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初稿:2005/07/25
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   ルルヘキ姉弟はぐれ旅 寿司職人への険しき道
 
「あー、死ぬかと思った」
「死んでた死んでた」
 肩をコキコキ起きあがるヘキレキは、姉のルルカルにそうツッコミを入れられた。
 ルルカル・ヘキレキ姉弟は、寿司屋を開店した。
 ルルカルは調理師としてプロ級の腕前を持ち、ヘキレキは伝説魚をも釣り上げる釣り師だ。この二人の技能を生かすのに、寿司屋は最適な選択だった。
 友人のボスヤスフォート(愛称ボスやん)にドラドスシを注文されたのは先日のこと。
 ヘキレキは早速材料となるノーブルレディを釣りに、セルビナ・マウラ間の船に乗り込んだ。
 
 そして見事にシーホラー様にぬっころされたのだ。
 
 シーホラーとは航路にまれに出てくる凶悪なモンスター。レベル75に到達した冒険者でも倒すのは一苦労といわれる。
 レベル70のヘキレキではとても太刀打ちできる相手ではなかった。
 港で待機していたルルカルに蘇生魔法のレイズをかけてもらい事なきを得たが。
「てゆーか姉さんも一緒にいれば倒せてたのに」
「あたし、船に乗ると酔うから」
 ヘキレキのじと目は、しれっとかわされた。
「で、どのくらい釣れたの?」
 問われ、戦果を見せる。釣れたノーブルレディは2ダースほどだ。
「まだまだ足んないわね。あたしは握りに戻るから、しっかり釣ってきなさいよ!」
 言うだけ言い、姉はデジョン(帰還魔法)で帰って行った。
 …………。
 はう。ヘキレキはため息をつき、出発間近の船へ向かった。
 
 寿司職人への道は険しく遠い。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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初稿:2005/09/06
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   ルルヘキ姉弟はぐれ旅 チョコボのマズルカ
 
 ヘキレキは釣り好きである。
 今日も今日とてバタリア孤島でのんびりと釣り糸を垂らしていた。
 この釣り場は姉のルルカルが見つけたところだが、ミッションでやってきたパーティの大鳥戦に巻き込まれてぬっころされるというマヌケな一件以来、ここはヘキレキ専用の釣り堀と化している。
 ヘキレキは安全を期して大陸側で釣るようにしている。良識あるタルタルとして、姉と同じ轍を踏むわけにはいかない。
「【こんにちは】【ちょっといいですか?】【テレポホラ】【くれませんか?】」
 ルルカルから共通語でテルがきたのはそんなときのことだった。
「何を訳のわからんことを言っとりますか」
 ため息混じりのテルを返す。
 ちなみにヴァナディールに住む冒険者はすべからく「テル」という能力を持っている。これは、端的に言えばテレパシーのことだ。
 また、種族や所属国が同じでも、日常で使う言語が異なる場合があるため、冒険者管理組合【スクウェア・エニックス】によって共通語が設定されている。
 ルルカルとヘキレキはもちろん同じ言語を話すので、共通語で語りかけてくるというのは品のない冗談に他ならない。
「まあいいから、とにかくさっさと戻ってくるのよおらおらおら!」
 姉がおらおら口調になるときは、身内とてヘキサストライクの刑を受けかねないヤバイ状態だ。仕方なく、ヘキレキはジュノへ帰還した。
 
「というわけで、ホラまでひとっ走り飛ばして欲しいわけよ」
 頭にかぶった王冠は詩人の証。
 ジュノで待っていた姉は、吟遊詩人の格好をしていた。
「自分で飛びゃあいいのに、なんで詩人?」
「ふっふっふ、飛んでみればわかるわよ」
 意味深長な、タルタルとしては不気味な笑みに、ヘキレキはいやな予感を覚えて仕方がない。
 しかしまあ、仕方ない。ヘキレキは姉の要求通りテレポホラを唱えた。
 切り替わる景色。いつものゲートクリスタルだ。ちょっと離れたところにチョコボがいる。
「んじゃあそういうわ・け・で」
 色っぽい声でルルカルはヘキレキの耳元に顔を近づけ、こうささやいた。
「あたしの歌を聴けええぇぇーーっ!」
「だああっ、やかましい! 鼓膜が破れる!」
 前言撤回。ささやくではなく、つんざくほどに叫ぶ、だ。
 
 ちょっこぼ、ちょこちょこ、ちょっこっぼ~♪
 ちょっこぼちょこぼ~、ちょっこぼちょこぼ~♪
 はいっ!
 
 おお、この歌わ!?
 最後の「はいっ!」が謎だが、この歌は紛れもなくチョコボのマズルカ!
「よっしゃ、セルビナまで走るわよ!」
 言って姉は、タルタルには似合わない速度で走り出した。
 それをぴったり、ヘキレキが追いかける。
 まさか姉がマズルカを習得していたとは。
「レイズやテレポ以来の感動よ、これは!」
 ヘキレキはうなるしかなかった。弟へ自慢したくなるのもうなずける。
「ところでセルビナへは何しに?」
「ドージュマさんとこへニシンの塩漬けを買いに」
「なんでまたそんなもんを」
「調理ギルドへ納品するのよ」
「なるほど。自分で作らないで店売り品ですますところが姉さんらしい」
「あんた、別の方面で納得してない?」
 とか会話しているうちにラテーヌ高原を抜けてバルクルム砂丘へ突入する。
「もうすぐエプロンが手に入るのよ。そしたら次は白サブリガよ!」
 …………。
 白サブリガって、どうみてもパンツにしか見えないアレか?
 白パンツ+エプロン。
 何を考えてるんだこの姉は。
 しかし、白パンツ+エプロン。
 白パンツ+エプロンのミスラ。
 白パンツ+エプロンのヒューム女性。
 白パンツ+エプロンの以下略。
 愛らしいタルタルのヘキレキとて男の子。
 夕暮れの砂丘を疾走しながら、妙な想像をふくらませてしまうヘキレキであった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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初稿:2006/07/03
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   ルルヘキ姉弟はぐれ旅 ドラギーユ城の休日
 
 ヘキレキに割り当てられたモグハウスは、『防具箱』で埋め尽くされている。
 四六時中出かけていて、たまに帰ってくるときといえば宅配物や保管品の確認、ジョブチェンジの時くらいというのが冒険者というものではあるが、問題はこの部屋に保管されている荷物のほとんどが、姉ルルカルの私物だという現実である。
 最近は冒険者管理組合【スクウェア・エニックス】から『モグロッカー』という収納システムを提供されているが、安価ながらも維持費がかかるので、姉から使用を止められている。
 ヘキレキは白魔道士専門なのでそれほどでもないが、ルルカルは他に赤魔道士や吟遊詩人も高レベルなので荷物が多くなるのはわかる。
 わかるが、その荷物を弟に押しつけるというのはなんとかならぬものなのなのか。
 整頓されながらも何となく散逸しているような自分の部屋を眺め、ヘキレキは溜息をひとつついた。
 モーグリの悲鳴じみた声が響いてきたのはそのときのことである。
 
 ──勝手に入ってきたらダメクポ! 姉? そんなの関係ないクポ。他人のモグハウスに入ってはいけないという冒険者規約が『モーグリさんに問答無用のホーリ~!』グポァォッ!?
 
 きゅごーんっ! まさに問答無用。ヘキレキ担当のモーグリにホーリーをぶち込み、ずかずかと姉のルルカルが部屋へ上がってきた。
 
「まったく失礼しちゃうわよね。可愛いお姉様を捕まえて『他人』だなんてさ」
 黒こげになったモーグリを看病しながら、ヘキレキは溜息をもうひとつ。
 我が道を全力疾走するこの唯我独尊タル、いつか懲戒免職【アカバン】食らうのは間違いあるまい。
「しかし殺風景な部屋ね」
 誰かさんの荷物のせいで部屋を飾る余裕がないんですよ。無遠慮きわまりない姉の台詞に思わず半眼になるが、口に出すことはかろうじてこらえた。
「で、規約違反をさせてまであたしをここに呼ぶなんて、いったい何の用?」
 ヘキレキは顎に手を当て、考えた。確かに彼女を呼んだ覚えはあるが、部屋へ直接来いと言った記憶がとんと残っていないのだ。最初からそんなことは言っていないのだから残りようもない。
 まあいい。姉の歪曲した台詞へ突っ込むのは次の機会にしよう。
 ヘキレキは用件を言おうとしたが、はたと口をつぐんだ。
 さて、どう言えば良いものか。
 とりあえず、経緯から話そうか。
「ドラギーユ城のハルヴァー氏は知ってるよね」
「あのいかついおっさんよね。ミッションとかでいつも無理難題を出す困った人」
「うん。あの人から依頼を受けたんだ」
「どんなの?」
「第一王子トリオンの花嫁候補を探してるんだってさ」
「なんと、あの馬鹿王子に? そんな物好きいるのかしら」
「で、王子の好みのタイプなんだけど」
 ルルカルが口をつぐんで弟の言葉に耳を傾ける。一言一句、間違えないようにヘキレキは言った。
「赤みがかった金髪を、」
「ふむふむ」
「後ろで二つに束ね、」
「ふむふむ」
「ボリュームのあるシルエットにしている、」
「ふむふむ」
「タルタル女性が好みなんだそうな」
「ふむ」
 王子の好みのタイプを聞き、ルルカルは目を閉じてどんな姿なのかイメージしているようだ。
 ふと眉をひそめ、彼女は言った。
「なんか性悪そうな顔ね。いかにも自分の都合の良いように男を振り回しそうなタイプだわ」
 ヘキレキは彼女にいつも振り回されている男を知っている。しかも距離ゼロというごく身近なところにいる。てゆーか自分のことだ。
「けど、見たことのある顔ね。誰だったかしら?」
 首をひねる姉へ、ヘキレキは防具箱から取り出した手鏡を渡してやった。
 ルルカルはそれを覗き込み、たっぷり30秒。
「あら(はぁと)」
 あらじゃねえだろおい。
 こんなのが未来の王妃候補とは、世も末である。
 
         *
 
 支度をするから待っていろ言われ、ヘキレキは王城前で一人待ちぼうけ。
 サンドリア王国の北側地区、通称北サンド。ここにはドラギーユ城と大聖堂が並びそびえる、神聖なる区域である。
 耳を澄ませば、荘厳な音楽が聞こえてきそうな迫力だ。
 特にタルタルには、エルヴァーンの王族が住まうこの城はことさら大きく見える。
 王城の前にある噴水広場、そういやここは『あますず祭り』の時にタルタルが盆踊りをしていたな。そんなことを考えているうちに、姉が現れた。
 姉の姿を見、ヘキレキの顎が外れる。それもう、顎が地面に着かんばかりに。
「そこのあなた! あたしを美しいとおっしゃいなさい!」
 シャントット様じみたこの台詞は間違いなくルルカルである。
 しかし彼女は、見慣れたクレリクブリオーではなく、真っ白なドレスに身を包んでいた。
 これは、結婚式などで使われるオパーラインドレスだ。頭にはバラの髪飾り、リラコサージュをつけている。
 馬子にも衣装とはこのことか。
 唸るヘキレキに、ルルカルはタルタルらしからぬ含み笑いをし、
「こんなこともあろうかと買っておいたのよ」
「この前俺の金【ギル】がごっそり減っていたのはそれかあ!?」
「あんただって共同貯金でノーブルチュニック買ってんだからお互い様でしょ」
 くそー、痛いところを。
 この件を持ち出されては、ヘキレキは黙ることしかできない。
 しかし、タルタルのドレス姿というのも微妙だが、腰にぶら下げたダークモールに一抹の不安がよぎるのはなぜだろう。しかも二刀流ですよお姉さん。
 
 ルルカルはいきなり扉を蹴破り、謁見の間前の大広間に躍り出た。
「たのもー! ルルカル・アルルカン【Lurucal-Arlequin】が嫁に来たわよ! 問答無用のホーリーをぶち込まれたくなかったら馬鹿王子をすみやかに差し出すのよおらおらおら!」
 姉上、のっけからテンパリすぎです。てゆーかあんたそうゆうセカンドネームでしたか。
 何事かと立ちすくむハルヴァー氏に、いきり立つ姉をなだめつつヘキレキは取り次ぎを申し込んだ。
 
         *
 
 このあとの顛末は、第二王子ピエージェの策略にハマった冒険者の方々ならご存じであろうゆえ、ここでは省く。
 まあ要するに、ルルカルが王子の嫁に行くことなど、ヴァナディールがひっくり返ってもあり得ないということだ。
 
         *
 
「まったく、失礼しちゃうわよねー。正装までして来てやったっていうのに」
 ぷんすかと、ルルカルは風を切って歩いている。その後ろを、ヘキレキは肩をすくめてついて行っていた。
 姉弟に与えられた報酬は、それぞれに指輪がひとつずつ。見た目、ごく普通の指輪で、冒険者的にも特に有利な性能は備えていないようだ。
「こんなもん、どうしろってんだか。ヘキレキ、あんた、いる?」
「俺がもらってどうするんだよ」
 指輪を指で空中へ弾いて遊んでいる姉へ、ヘキレキは苦笑混じりに首を振った。
 この指輪は、おそらく自分の名前を彫って、意中の相手にあげなさいという意味の代物だろう。
 こんな無頓着な女では、嫁に行くなどまだまだ先のことになりそうだ。
 とか思いつつ、ヘキレキにもこれといった異性がいるわけではないのだが。
 
 この姉弟に幸が訪れるのは、果たしていつのことになるのであろうか。

【二次創作】光トカゲを抱きしめたまま

ゆみみみっくす番外編 光トカゲを抱きしめたまま

「行ってきまーす!」
早朝の日差しを浴びながら、元気に駆け出す少女が一人。
吉沢弓美、十五歳。恋に恋する高校一年生。
初夏にあった事件から、はや半年以上が過ぎ、今日は二月十四日、バレンタインデーである。
弓美のカバンの中には、いびつな形をしたチョコが数個と、ピンク色の包装紙に包まれた大きめのチョコレートが入っている。
「とりあえず委員長は失敗作の方で良いわよねー。本命は……」
中身を確認しながら、弓美はぶつくさと呟いている。
台所を借りて作ったチョコレート。溶かして型にはめるだけの作業に、なぜここまで滅茶苦茶に出来るの? と母にぼやかれたものだ。
苦労した甲斐あって、ひとつは上手く出来上がった。問題は誰に渡すかなのだが、異性でそこそこのつき合いのある者というと、委員長とクラスメイトの松崎真一くらいしかいない。父へのは別口で用意してある。
委員長は失敗作、義理チョコで充分である。断言。
そうなると、本命チョコはやはり……。と、頬を赤らめながら歩くその姿は、いささか危険なものがあるかもしれない。
「真一ぃ、あたしのチョコが受け取れないっていうの?」
クラスメイトの桜崎桜子の声が耳に入ってきた。いつの間にやら校門のあたりまできていたのだ。なんとなく立ち止まって、中の様子をうかがってみる。
桜子が、きらびやかな包装紙に包まれた箱──おそらくはチョコレートなのだろう──を持って、真一に迫っている。
松崎真一は、桜子の幼なじみである。弓美にとっては羨ましい関係だ。
「だから俺はチョコレートが苦手なんだってば」
鬼気迫る桜子に、焦った声で答える真一。弓美の頭の中に真一の声がこだました。
(がーんっ。松崎君、チョコレートが嫌いなんだ)
校門の前で頭を抱える弓美。このままでは、せっかく作ったチョコレートが無駄になってしまう。
いやしかし、これは気持ちの問題なのだ。あげることに意義がある。だが、いやがる物を無理にあげるわけにもいかない。
きーんこーんかーんこーん。と、いろいろと思案しているうちにチャイムが鳴り出した。
「あーっ! 遅刻するぅ!」
「あら、弓美。またギリギリね」
思わず校内へ駆け出した弓美に、桜子が気づいて声をかけた。校舎へ急ぐ二人。真一も後へ続いた。
このとき弓美は気づいていなかった。背後に奇妙な人影があったことに。

ひひーんっ。と、馬のような鳴き声が天井を通して響いてくる。
午前の授業も終わり、弓美と桜子、それと真一の三人は教室内で昼食をとっている。
例によって桜子は、パンやら弁当やらを机の上にテンコモリにしている。
ぶひひーんっ。もう一つ鳴き声が響いた。空を見透かすように、弓美は天井を見上げる。
「まあしかし、すっかり居着いちゃったわね。あいつら」
右手にあんパン、左手にパック牛乳を握りしめ、桜子がモゴモゴと言う。
あいつらとは、例のユニコーンのカップルのことである。
彼らは、一度は自分たちの世界へ帰っていったのだが、こちらの世界が気に入ったのか、自ら再び穴をあけ、ちょくちょく遊びに来たりしている。
現在では、彼らはすっかり学校の名物になっている。
「真一、もう食べてくれた?」
「学校で食えるかっ」
桜子の台詞に、真一が即答する。弁当とかではなさそうだが、と思い、
「なにを?」と弓美は聞いてみる。
「決まってるじゃない。チョコレートよ。ち・よ・こ・れ・い・と☆」
桜子は照れくさそうに手をパタパタ振りながら答えた。真一が気まずそうな顔をしている。
(ああ、結局受け取ってしまったのか。あたしのはどうしよう)
思い悩みながら、箸で「の」の字を書いたりしてる弓美に、真一が不思議そうにのぞき込んでくる。
「どうした、吉沢?」
「あ、な、何でもないのよ。あははははー」
にこやかに冷や汗を流しながら箸をチャキチャキ振ってみせる弓美。
(うーん、やはり押しが大切よねー。桜子ちゃんみたいに上手くはいかないかもしれないけど)と、弓美は思い切って立ち上がった。
「あ、あの、松崎君」
鞄の中のチョコレートへ神経を集中し、次の言葉をつむぎだそうとしたところへ、
「弓美くーんっ」いきなり委員長が後ろから抱きついてきた!
「きゃああぁーーっ!」
ごげっ。問答無用で裏拳を叩き込んでやった。爽快。
「い、痛ひ……」
鼻を押さえて屈み込む委員長。「当然の報いです」と言う弓美に、桜子も真一も大きく頷いている。
しかしそこはやはり委員長。速攻で復活し、弓美にすがってきた。
「弓美くーん。チョコレートちょうだいよー」
「は? 委員長、もらってないんですか?」
「いや、こんなに」
委員長は学生服の裾からパラパラとチョコを取り出す。
「全部義理チョコじゃないですか」と、これは真一。
「真一、男の価値はな、もらったチョコの数で決まるんだぞ」
得意げに語る委員長。真一は「はあ」と面食らった顔をしている。
(あらゆる手段を使って手に入れてるみたいね、副部長)
(じゃなきゃ、義理チョコったって、あんなにもらえるわけないわよねー)
小声でささやきあう弓美と桜子の二人。
「というわけで、弓美くーんっ」
再び飛びかかってきそうな委員長へ、弓美はジャブで牽制する。
「桜子ちゃーん……」
泣きそうな顔色の委員長。桜子は頭痛がするかのように額を押さえる。
「はいはい。わかりました。これをあげるからあっちへ行ってなさい」
桜子はスカートのポケットから小さなチョコをひとつ取り出す。あんなところにまでしまってあるとは。妙に感心してしまう弓美であった。
「って、桜子ちゃん。チロルチョコ一粒だけ?」露骨にイヤな顔をする委員長。
今時珍しいチョコね。弓美は思わず呟いた。
「何だったらこれもあるわよ」
「”ゴエンがあるよ”……?」
にこやかに冷や汗をかきまくる委員長。五円玉の形をしたそのチョコは、さすがの弓美にもわからなかった。
「よくそんなの持ってるなあ」腕組んで感心する真一。
「ふっ。駄菓子屋巡りはあたしの日課よ」桜子は当然のように答えた。
「弓美くん……」
寂しそうな委員長の瞳が弓美をとらえた。弓美はひとつため息をつく。
「わかりました。これをあげます。……えいっ!」
鞄から取り出した失敗作を、廊下へ向かって放り投げた。委員長は、キャンキャン言いながら出ていった。
「あんた……結構やるわね」桜子は感心しまくっている。
「あの、弓美先輩いますか?」
委員長とは入れ替わりに、中等部の女の子が一人やってきた。森下理恵である。
「あら理恵ちゃん。なんのご用?」
ごく自然に受け答える弓美だが、内心少し不安になっていた。
なにしろ、ユニコーンたちが再びこちらへ来るようになってからというもの、なにかにつけて一角獣が弓美へ、二角獣は理恵へと取りついてくる。そして理恵は弓美にせまってくるのだ。
どうやら彼らは人間としての生活も気に入ってしまったらしい。
その上最悪なことに、普段の状態の理恵までもが弓美になついてきている。
かくして弓美はすっかり「女の子が好きな女の子」というレッテルを貼られてしまったのだ。
取りつくなら他の人間にして欲しいところなのだが、波長がどうとかで弓美・理恵以外には取りつけないらしい。
「これ、受け取ってください」
理恵の差し出したのは、包装紙に包まれた小箱にリボンのワンポイントを添えた物だった。どうみてもチョコレートに間違いなかった。
「それじゃ、あたしはこれで」
弓美が言葉を返そうとするよりも早く、理恵は去っていった。心なし恥ずかしげに見える。
「良かったじゃない。ホワイトデーはちゃんとお返ししなさいよ」
ちゃっかり突っ込みを入れる桜子。
「あーん、まともな女の子に戻りたい~」弓美はニコ目で涙を流している。
(このままだと、あたしはみんなに正常視されなくなっちゃうわ)
弓美は妄想モードに入った。
(桜子ちゃんに見放され、松崎君に呆れられ、委員長に写真を撮られてしまうのねぇ)
「な、なによこいつ?」
桜子が何か言っているが、今の弓美には聞こえていない。妄想モード続行中である。
(このままじゃいけないわ。なんとしても汚名挽回しないと)
チョコ嫌いでもかまわない。真一にチョコを渡せば、きっと今のアブノーマルな状況を脱せるはず。弓美は決心し、真一の方へ向き直った。
「松崎君、ちょっと来てくれる?」
弓美は真一の手を引き、表へ向けて歩き出す。
「ちょっと、弓美!」
桜子の言うことなど聞きもせず、弓美は教室を出ていった。引いた手が真一の物でないことに気付かずに。

春は近いがまだまだ寒い。晴れ渡った裏庭には、その二人以外は誰もいない。
北風が、弓美の三つ編みを左右へ揺らす。
そういえば、まともにチョコを男の子へ渡すのは初めてである。それを思うと頬が熱くなる。
弓美はフェンスの向こうを向いたまま、冷たい風にあたって気を落ち着けるよう頑張った。そしてひとつ深呼吸し、
「松崎君、これを受け取って!」
顔を真っ赤に差し出したチョコのその先に、奇妙な動物が突っ立っていた。
「ぎゃ?」
ぎゃ? 思わずオウム替えししてしまう弓美。
人と同じくらいの背丈。しかしその身体は緑色で、太く長い尻尾が生えている。
爬虫類系の顔つき、線のように細い目だが、眼球の丸いラインがくっきり浮き出ている。
直立トカゲというか小型の恐竜というかガチャピンというか、そんな感じである。
背中には身体と同じ色の大きな翼(鳥系でなくコウモリ系)が生え、不思議なことに、全身から金色の光を放っている。
「と、トカゲええぇぇーーーっ!」黄色い素っ頓狂な悲鳴が上がった。
「あんぎゃあぁーーっ!」
ばさあっ。弓美の反応に驚いたか、謎のトカゲはチョコを手に飛び去ってしまった。
「ま、待って! あたしのチョコレート!」
手を挙げて追いかけるが、時すでに遅し。上空にはほかにも数人(?)のトカゲが舞っていた。
「弓美!」
校舎から、桜子がやってきた。真一・委員長・理恵もいる。
「みんな! なんなのよ、あれ?」
「あたしの方が聞きたいわよ。あのトカゲ、あたしが真一にあげたチョコまで持ってっちゃったのよ!」桜子の語気は荒い。
「俺のチョコレート~」情けない声を上げる委員長。
真一は言葉を濁している。チョコを奪われても比較的平然として見えるのは、やはり本気でチョコが苦手なのだろうか。
「と、とにかく、なんとかしてチョコを取り戻さなきゃ!」
言って上空を見上げる弓美だが、上手い方法が思い当たらない。
しかしそのとき、ひづめの音とともに二頭のユニコーンが走ってきた!
「な、ちょ、ちょっと待って!」
どっかーんっ! 避けようとするよりも早く、一角獣が弓美に体当たりした。
だが弓美は吹き飛ばされることなく、軽くしりもちをついただけだった。
「あたたたた……」
上体を起こす弓美。シャンプーの香りが鼻をくすぐった。胸元をみると、
「好・き……」理恵が抱きついていた!
「どひいいいぃぃ」
にこやかに青ざめ、思わず後ずさろうとするが、理恵はしがみついて離れない。
一角獣に体当たりされ、そして取りつかれた。以前の事件の解決後も、何度かこういう目に遭っている。そして二角獣の方は理恵に取りついたらしい。
「真一、カメラ持ってるか?」
「いえ、あいにく」
「冷静に観察してないで、なんとかしてえっ」
しかし弓美の頼みはほとんど無視され、桜子が理恵へ質問してきた。
「ねえ、あのトカゲみたいなの、あんたたちと関係あるんでしょ?」
「そうなんですぅ。あれはあたしたちの世界に住む”光トカゲ”という種族なんです」
「光トカゲ?」目を点にして呟く真一。
理恵は、弓美に抱きついたまま説明を始めた。
身体から発する金色の光から、彼らは「光トカゲ」と呼ばれている。ユニコーンたちと同じ世界の住人で、チョコレートが好物らしい。
「向こうの世界にもチョコレートなんてあるの?」
桜子の質問はもっともである。しかし理恵が言うには、彼らは光を発するために、高カロリーなチョコレートを重宝しているとのこと。世の中よくわからないものである。
「たぶん、あたし達が開けた穴からやってきたのね」理恵は平然と言う。
「つまり、元をただせばあんた達のせいってコトね。早くなんとかなさい!」
「えーん、あたしのせいじゃなーいっ」
迫力の桜子に、思わず涙する弓美。「ユニコーンの方よ」と短く補足が入った。
「光トカゲはたぶん、向こうへ帰ってから食べようとするはずだから、穴で待ち伏せしていれば良いと思います」
すがるように理恵は説明した。瞳がなにかをせがんでるように見えるが、弓美はそれを無視した。
「穴のそばなら変身できるわね。どこにあるの?」
「体育館の屋根の上です」
理恵の台詞に、弓美は一瞬めまいを覚えた。前の事件の際に屋上に取り残されてしまった件を思い出したのだ。
「別にあたしに取りつかなくっても、ユニコーンのままでも大丈夫なんでしょ?」
最大の疑問を投げかける弓美だが、
「それは一蓮托生ということですぅ」軽くいなされ胸元へすりすりさせられる。
「わ、わかったわよ。わかったからもう離れてえっ」
このままだと本気で道を誤ってしまう。泣きたい思いの弓美であった。

「ひいっ、ひい、怖かったよおぉ」
はしごを登るときは下を見てはいけない。弓美は心底思い知らされた。
桜子達が下から見守っていて、わざとらしく桜子が声をかけるものだから、つい下を向いてしまったのである。
なんとか屋根の上まで上がってきたが、穴らしき物は見あたらない。
理恵に聞きたいところだが、彼女は弓美から離れたとたんに正気に戻ってしまい、屋上へ上がることを拒まれてしまった。
「あら?」
緑色のアーチ状である屋根の頂上部に、奇妙な「歪み」が見えた。レンズを通したように、向こうの景色がゆがんでいる。そしてプリズムに通した光のような虹色の輝きが、そこから巻きおこっている。
「あれが穴かしら?」
弓美は足下に注意しながら近づいていく。以前の「穴」は、空間にぽっかりと開いた感じだったが、今度のは少々雰囲気が違う。穴あけネズミでなくユニコーンが開けたからだろうか。
「……変身しないわね?」
いつもなら充分変身可能なところまで近づいてるののに、なんら身体に変化が現れない。不思議に思って穴に手をふれたとき、
ぞくりっ。背筋に一瞬寒気が走った。そして馴染みのある立ちくらみが起こる。
視界がぼやけ、頭の中いっぱいに星空が広がる。貧血を起こしたときの感覚に似ている。
ひづめの音が弓美の頭の中に響く。つづいて火がついたように全身が熱くなる。おでこの辺りが特に熱い。暗い視界の上部に光が射し込んでくる。しかしそれは以前にも見たことのある光だった。
ゆっくりと目を開いてみる。そして手のひらを見つめる。少しほっそりした感じになっている。
三つ編みがほどけ、やや大人びた顔つき。ひたいにはピンク色の角が生え、瞳の色が真紅に変わっている。弓美は変身したのだ。
弓美自身、変身後の姿は結構気に入っていて、化粧で再現できないかと試したこともあったが、精悍なこの姿を形作ることは出来なかった。
弓美は辺りを見回してみる。
「って、あら?」
妙なことに気付いた。変身した後なのに、「自分の意志で動ける」。思わず準備体操などしてみたりする。この姿でやるとちょっと違和感があるかも知れない。
そのとき、弓美の脳裏に馬の鳴き声がした。いつもだったらいななきにしか聞こえないところだが、ユニコーンの発する「言葉」だということが理解できた。
彼が言うには、変身効果はいつも通りだが、身体の支配権までは取れなかったということ。
弓美の意思で動けるのは、まず、前回のように成り行きでなく、変身するための理由が弓美にはちゃんとあった、ということ。
そして、穴あけネズミでなくユニコーン自らが開けた穴だということ。(穴の雰囲気が違うのもその為)
さらに、今回のユニコーンの仕事は、光トカゲを向こうの世界へ追い返すことで、「穴ふさぎ」という彼の本来の仕事とは関係ない、と以上の理由によるものだそうである。
「とにかく、光トカゲを探さなきゃ」と、一歩踏み出したとたん、
視界が青空に変わった!
「どしえええぇぇ!」
弓美は空へ放り出されていた。小柄な身体が宙をくるくる回る。
必死に体勢を立て直し、校庭に着地する。足から地上へ降りられたのは奇跡的ともいえた。
「弓美、なにやってるのよ?」桜子の問いに答えようとするよりも早く、
軽く足に力を入れただけで、再び空中へ舞い上がる!
ユニコーンの力は弓美の想像以上のものだったのだ。軽くアクセルを踏んだだけで時速三百キロの世界である。
「ちょっと! ふざけてないで光トカゲを片づけなさい!」下から桜子の罵声が響く。
ユニコーンはよく、こんな力を自在に制御できたものだ。空中で弓美はそんなことを考えていた。
とはいえ、弓美も初めての変身ではないので、徐々に慣れてくる。二・三分ほどで、ある程度自由に飛び回れるようになった。
弓美は再び体育館の屋上へ行くと、辺りを見渡してみる。普段の視力はそこそこだが、変身効果か景色から細かいところまでよく見える。
と、何カ所かで光トカゲがたたずんでいるのを発見した。すぐに弓美は飛び上がる。
「ぎゃぎゃ?」体育用具質の陰に、チョコを手にした光トカゲを見つけた。
「そのチョコ、返してくれる?」
弓美の言葉は少々焦燥気味だったのかも知れない。
「あんぎゃーっ!」光トカゲは逃げるように飛び去ってしまった。
「待って!」
弓美が手を差し伸べた瞬間、
ぴかあっ! 額のつのから光線がほとばしった。一瞬びっくりした弓美だが、すぐに気を取り直し、この光線に意識を集中する。
光線はロープのように光トカゲにまとわりつく。弓美の意思通りに光線は動き、体育館の上にある穴まで光トカゲをつれていく。弓美自身は用具室の脇のままである。
「ごめんね」
一言だけ謝って、弓美は光トカゲを穴の中へ押し込んだ。手にはチョコレートが舞い戻ってくる。だが、それは弓美が真一へ渡そうとした物ではなかった。

その後、幾匹もの光トカゲを追い返したが、弓美が真一へ渡すはずだったチョコレートは見つからなかった。
いくつかは食べられてしまった物もあった。ちなみにその際、
「お、俺のチョコレートおおぉぉ」
「はいはい。副部長にはこれをあげるから大人しくしなさい」
「……チョコバットって、さぁくらぁこちゃーん」
「不満? ヒットが四つでもう一本よ」
とかいう会話があったが、光トカゲ退治中の弓美の耳には入っていない。
「うー、松崎君へのチョコレートがあぁ」
あらかた片づけ終わった弓美は、校庭の隅で小さく唸っている。もしかしたら、既に食べられてしまったのかも知れない。
その時、体育館の屋根の上に奇妙な気配を弓美は感じ取った。
ぴょーんっ。軽快な動きで、素早く体育館へ向かう。
「……見つけた」
弓美は再び穴の側まで戻ってきた。そこに、ピンク色の包装紙に包まれたチョコを持った、小さな光トカゲがいた。
間違って渡した光トカゲとは違う。まだ子供のようだ。
「ぎゃうぅ……」
怯えたひとみで、光トカゲの子供は弓美を見つめる。
「お願い。それを返して」出来るだけ優しく声をかける弓美だが、
「ぎゃうっ!」光トカゲは穴へ向かって駆け出した。
ずだだだだっ! 額から光を飛ばし、弓美は素早く穴をふさいだ。
帰り道をたたれた光トカゲが、弓美の方へ振り返る。は虫類系の顔色は解らないが、泣きそうな雰囲気だということは解った。
「そのチョコは特別なヤツなの。どうしてもあげたい人がいるから……あなたには、別のをあげるから。ね?」
子供をあやすような声だった。光トカゲは少し安心したのか、弓美に近づく。
「いい子ね」
弓美は光トカゲを抱き上げた。子犬よりは大きく、抱きごたえがある。
胸元で、光トカゲはチョコを差し出した。甘えたような声を出している。
「ありがとう」
片腕で抱きなおし、余った手で優しく撫でてやる弓美。
「さあ帰ろ」下へ降りようと思った弓美だが、あることに気付いた。
いつの間にか変身が解けていたのだ!
「穴、塞いじゃったからだ……」
そう。穴がなければ、ユニコーンたちは向こうの世界へ戻ってしまう。弓美はまたしても屋根の上へ取り残されてしまった。
「誰か、たぁけてぇーーっ!」
光トカゲを抱きしめたまま、地上へ向かって泣き叫ぶ弓美であった。

「はい、松崎君」
緊張気味に、弓美は真一へチョコレートを手渡した。
あれから、なんとか地上へ降りた弓美は、ようやく当初の目的を果たすことが出来たのだ。
足下では、光トカゲの子供が失敗作にかじりついているし、後ろには桜子達もいて恥ずかしいことこの上ないが、二人きりになれるチャンスはもはや無かったのだ。
「ありがとう。ホワイトデーにはお返ししなきゃな」
真一は笑顔で受け取ってくれた。自然、弓美の顔もほころぶ。
「当然、あたしにもくれるんでしょうね?」桜子がふてくされて言った。
「わかったわかった」真一は苦笑した。
すかさず桜子が注文に入った。キャンデーやらクッキーやらとんでもない量である。
放っておくと一介の高校生に買える量じゃなくなるので、弓美は話題を変えることにした。
「ところで松崎君、なんでチョコレートが苦手なの?」
「知ってたのか」
真一は苦い顔をし、トラウマとなった過去を語った。
幼い頃、桜子と一緒に駄菓子屋へ遊びに行ったとき、「食い倒れだー!」とか言って桜子がお菓子を漁りだした。
そのとき、真一はチョコレートの担当にされてしまったのだという。
「一軒丸ごと? そりゃあ、トラウマにもなるわよねー」
呆れて言う弓美。桜子の大食漢は先天性のものらしい。
「ぎゃおーっ!」
突如、光トカゲが雄叫びを上げた。身体から発する金色の光が明るく輝き出す。
「満腹になったのかしら?」
光トカゲは猫なで声を上げている。チョコを食べると光量が増すというのは、なんとも奇妙な体質ではある。
「けどこの子どうしよう?」抱き上げ、弓美は桜子達を見回した。
「どうするもこうするも……」
桜子が言いかけたとき、体育館の方から紙を裂くような音がした。
つづいて、馬のいななきがする。もちろん、二頭分。強制的に戻されたが、残る一匹の光トカゲを連れ戻しに来たのだろう。
「戻ってきたみたいね」桜子は軽い溜息ひとつ。
「良かったわね。ユニコーンがおうちに帰してくれるわよ」光トカゲへ微笑む弓美だが、
「ぎゃぎゃ!」首を横へ振ると、弓美にしがみついてきた。
「帰りたくないみたいだな」と、真一。
その時、二頭のユニコーンが弓美へ向かって全力疾走!
「な、ま、また!」
どっかーんっ! しりもちをつき、弓美は光トカゲを放り出してしまう。しかし、胸元に誰かが抱きついていた。それはもちろん、
「好きっ」理恵だった!
「いやあっ、もう!」
にこ目涙の弓美に抱きついたまま、理恵は光トカゲを睨み付けた。
「この方はあたしの恋人ですぅ」
「どーぶつ相手に張り合うんじゃない!」
怒鳴る桜子。弓美は同感した。
「まあそれはさておき、その子、あなたのことが気に入っちゃったみたいねぇ」
理恵は甘えた声で言った。
「ま、飼うしかないんじゃないの?」肩をすくめ、桜子。
「あーんっ、変な友達ばっかり増えていく~」
「こら! あたしまで含めてるわね!」
かくして、二頭のユニコーンに光トカゲと、奇妙な友達が増えてしまう弓美であった。

10歳の保健体育6巻読了

20130511novel
 
しました。(゚-゚)b
今巻も馬鹿話で突っ走ってます。ヽ(´ー`)ノ
 
エピローグ部分の話は次巻の布石のようにも見えますが、やはり何もなかったかのように別の話をやるんでしょうねえ。ヽ(´ー`)ノ
 
しかしまあ、作者は何も考えずもとい、作者は楽しんで書いていそうだなあと。
 



さて。
まだ積ん読は残ってるのですが、しばらくはこのまま積み上がって行くにまかせ、しばらく止まっていた作業を再開しようかなと。
なんかゲームもやりたい気分。

これはゾンビですか?12巻読了

20130323novel
 
しました。(゚-゚)b
 
進んでへんわー。話がなんも進んでへんわー。
というわけで、修学旅行という日常がひたすら続き、最後に唐突にトラブルが発生してバトって次巻に続くといういつもの流れ。
短編集ほどひどくはないにしても、こうもgdgdと引き延ばしばかりだと、いい加減読むのがしんどいですわ。(´・ω・`)
15巻くらいで完結しますかねえ。最後までつきあえるか怪しくなってきましたわ。
 
てなところで、口直しに10歳の保健体育6巻としゃれ込みますか。
そのあとは銀の十字架とドラキュリア3巻、魔法科高校の劣等生9巻、ゲート1上下巻と、積ん読を片付けていく予定です。

シスターサキュバスは懺悔しない、読了

20130128novel
 
しました。(゚-゚)b
いや、これは面白かった。
 
エロバカコメディかと思ったら意外にもまとも。
最初の数ページは会話がほとんどなく読みづらそうな印象もありましたが、読み進めていくうちに気にならなくなり。
突飛なとんがったキャラもなく、それでいて皆キャラが立っているのは感心しました。
 
世界観は最近では珍しい中世ヨーロッパをベースにした剣と魔法のファンタジー。
魔法のたぐいはこの巻ではほとんど出て来ず、タイトル通りにサキュバスなど魔物のたぐいがメインです。
 
途中まで読んでいて思ったのは、昔読んだファンタジー解説書。
モンスターコレクションやスペルコレクション、アイテムコレクションなどがあり、用例としてショートエピソードもまじえて書かれてました。これのエピソードに特化したような印象でしたね。
 
350ページ弱とライトノベルにしては分厚い印象ですが、1話完結型の章仕立てで、読んでて苦にはなりませんでした。
どの話もまったりと進行しまったりと一区切りがつくのですが、最終章で突如ラストバトル。バトル展開は予想していなかったので驚きましたわ。
しかもここでまさかのエロバカ展開とは、良い意味で二回裏切られましたわ。(ノ∀`)
 
ちょっとよくわからなかったのは、このラストバトルで主人公がどうやって勝ったかですね。まあ敵の自滅というのはわかるのですが、その理由がしっかりと書かれてない感じが。
 
まあ、なんだかんだと面白かったです。続編が出るならぜひ読みたいですね。
 
てなところで積ん読が片付いてしまったな。
腱鞘炎がミシミシ言いやがるんで投げ出したままになっていた「デモンゲイズ」の続きをやろうかな。PSvitaの期待の新作なのです。(゚-、゚)

魔法科高校の劣等生8巻読了

20130120novel
 
 今巻は短篇集……かと思ったら、過去編のようで。
 メインヒロインな妹さんの一人称で進行していきますが、なんか読んでていらつく。
 語り手の語り方や文章装飾といった技術的なところが鼻につくのかなとも思いましたが、どうやら、序盤は語り手自身がいらついているからそれを受けてのようです。
 となると、作者の筆力の賜物ということになりますな。
 中盤以降はヒロインは完全にデレてしまうからか、読んでていらつくことはなかったです。
 最後に25ページほどの短編があり、主人公の母や叔母がなぜああいう人格なのかが明かされてます。
 まあ理由はわかりましたが、救われない一族ですな。(´・ω・`)
 次巻では学園編に戻るといいんですけどねえ。主人公がチートでちやほやされる展開のほうがまったり出来ますわ。(笑)
 
 さて、手元の積ん読はあと1冊。
 マイミクおすすめの「シスターサキュバスは懺悔しない」に取り掛かりますかね。
 しかし妙に分厚いな。(´・ω・`)
 その後は、同じくマイミクが高評価を出していてアニメ化もした「問題児たちが異世界から来るそうですよ?」を大人買いしようかと。現在6巻まで出てるのかな?

銀の十字架とドラキュリア2巻読了

銀の十字架とドラキュリア2巻
 
しました。(゚-゚)b
 
今巻張った伏線が回収しきれずに次巻に持ち越しというのは残念ですね。行き当たりばったりで書いてるわけでもないとは思いますが。
全体的に地味な印象は拭えませんが、読みやすく無難な構成なので安心して読めるのがいいですね。(゚-゚)b
 
さて、積ん読が尽きましたが、魔法科高校8巻が出ているようなので買ってこないと。
あと、マイミクによると「シスターサキュバスは懺悔しない」という作品がよさげらしいので、たぶんついでに。

これはゾンビですか?11巻読了

ゾンビですか11巻
 
しました。(゚-゚)b
今巻は可もなく不可もなく、といった感じですかねえ。
日常シーンが特につまらないということもなかったし、一方でバトルシーンがそれほど盛り上がったわけでもないし。
クリスと大先生が共闘する場面は、一応見せ場になりますかね。
 
メインシナリオはすっかり忘却の彼方ですわ。(´・ω・`)
クリス編まではまではおもしろかった覚えもあるのですが。
 
次は、銀の十字架とドラキュリア2巻の読書予定です。

這いよれ!ニャル子さん10巻読了

ニャル子さん10巻
 
しました。(゚-゚)b
 
まあいつもの馬鹿話なんですが、メタ発言だけはどうにも。
特に、250ページの「しょうもないメインストーリーしかないのに云々」はいい加減にしてくれと。
なぜ俺はこんなのを我慢して読み続けているのだ。(´・ω・`)
ネットネタやらデジタルガジェットネタとかはまだ我慢できるんですけどね。
ハス太がiPadで地図アプリを使ってる場面で、おいおい大丈夫かとか思いましたし。(笑)
 
てなところで、ひとまず積ん読は片付いたかな。ゲームでもやりましょうかね。

魔法科高校の劣等生7巻読了

魔法科高校の劣等生7巻
 
しました。(゚-゚)b
 
いや、今巻はきつかった。
まさか戦争物になるとは思っていなかったので。
視点は飛びまくるしシナリオ進行のない戦闘シーンが延々と続くしで、もう。(´・ω・`)
 
まあ戦いも一区切りついた、のかな?
学園生活に戻ってくれると良いんですけどねえ。
 
てなところで、次はニャル子さん10巻の読書予定です。ヽ(´ー`)ノ