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まったりゆったりうっかりをモットーにヽ(´ー`)ノ

【二次創作】ルルヘキ姉弟はぐれ旅(全5本)

【二次創作】ルルヘキ姉弟はぐれ旅(全5本)

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初稿:2005/05/31
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   ルルヘキ姉弟はぐれ旅 タルットカード
 
「ヘキレキ! どこにいるの? ジュノの占い屋に来るのよすぐに!」
 姉のルルカルにテルでたたき起こされたのは、サンドリアのモグハウスでうたた寝をしているときだった。
「あんた、タルットカード、まだクリアしてなかったでしょ? 交換してくれるって人がいるからすぐにきてちょうだい」
「俺、今サンドなんだけど」
「もう話はつけちゃったからさっさとくる! ○○って人だから、あとはあんたに任せたわよ!」
 身勝手な姉である。
 仕方ないので、着の身着のままで飛空挺乗り場へ向かいつつ、○○氏にテルで連絡を取る。
「すみません、ちょうど飛空挺が出てしまったんで、10分ほど待ってください」
「えぇ~、パーティーの約束があるのに」
 平謝りし、なんとか待ってもらえるように頼み込んだ。
「だいたいあんた、なんでジュノをホームポイントにしないのよ。デジョン一発で戻れるのに」
 姉はこういうが、ヘキレキはジュノのあのゴミゴミとした喧噪が苦手なのだ。
 だいたい俺は毎日を釣りですごせればそれで良かったんだ。
 それをあの姉に、「世界を股にかけて釣りをしたいのなら、それなりのレベルが必要よ!」とかそそのかされて、レベル64まで上げたは良いが、行けないエリアは山ほどあるではないか。
 そもそも最高レベルとされる75にしたところで、ミッションを進めていない彼には同じことだ。
 太公望の釣り竿を手に入れたときもそうだ。「あんたの物はあたしの物」とジャイアニズム全開で奪われてしまった。あれをもう一本手に入れるのに、どれほど苦労したと思ってるんだ!
 ぶつぶつつぶやいてるうちに、飛空挺が来た。その旨○○氏に伝え、ジュノへ向かった。
 ジュノへは滞りなく到着し、何度も平謝りしながら、なんとかタルットカードをそろえることができた。
「よし、それじゃ相性占いをしてもらうわよ」
「姉さんと?」
「あんたとの相性はどんなもんか、前から気になってたのよ」
 そのためにわざわざテルまでしてきたのか。シャントット似の豪傑タルタルな姉だが、もしかして可愛いとこもあるのか?
 で、占いの結果だが──
「……ぼちぼちとな」
「ぼちぼちでんなー」
 まあそんなもんだろう。
「てゆーか、姉さんはすでにタルットカードクリアしてるんだから、そっちで占ってもらえば」
「…………」
「…………」
「ああっ」
 たっぷり10秒考え込み、ルルカルはポンと柏手【かしわで】を打った。
 前言撤回。こんなだから「ボンクラ王」の異名をつけられるのだ。
 
 ヘキレキの姉に振り回される日々は明日も続く。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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初稿:2005/06/03
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   ルルヘキ姉弟はぐれ旅 にんともかんとも
 
「ほらほら、次はあの羊よ!」
「あれ、つよなんだけど」
「やばけりゃケアルしたげるから! さっさと行く!」
 姉に背中を蹴飛ばされ、ヘキレキはやむなく羊へ特攻を仕掛けた。
 「忍者を上げなさい」とルルカルに突如と言い渡されたのがつい先日のこと。
 以来、ヘキレキは姉に見守られ、否、監視されつつひたすらレベル上げを行っているのだ。
 きついときにはケアルをかけてもらえることもあり、わずか二日(ヴァナ時間)でレベル1から7まで上がった。
「忍者を上げておけばソロ活動がずいぶん楽になるからね。目指すはレベル37よ!」
 いや、俺はソロ活動は別に。その辺でまったり釣りができればそれで。
 というヘキレキのぼやきは姉には届かない。
 と、相手にしていた羊が大口を開けた。
 やばい! あれはシープソングだ。
 ごわあっ。羊のうめき声を聞き、一瞬意識が揺らぐ。シープソングには睡眠効果があるためだ。
 しかし、敵の攻撃を受け、ヘキレキは我を取り戻した。
「姉さん、ケアルをってレベル75が寝るなあああぁぁぁ!」
 回復魔法を求めて後ろに声をかけ、ヘキレキは絶叫を上げた。
 シープソングをまともに受け、ルルカルは突っ立ったまま鼻ちょうちんを流していた。
 レベル75が最弱羊の歌で寝るか、おい!?
 敵のヒットポイントは半分以上削ってる。なんとか押し切るしかない。ヘキレキは忍者刀を構え直す。
 数分後、ぎりぎりだが、なんとか敵を倒すことができた。たまらず腰を下ろして休憩する。
 ルルカルはいまだ熟睡中だ。最弱羊の子守歌がこうまで徹底的に入るとは、相変わらずのボンクラっぷりだ。ケアルの一発でもかければ目を覚ますのだが、あいにく現在のヘキレキはケアルを使えない。
 まあしかし、こうやっておとなしく寝ている分には可愛い姉御なのだが。ヘキレキはため息をついた。
 ルルカルは、この冒険の先にいったい何を見ているのだろう? 姉は、闇王を倒し、カムラナートすらも倒した。多くの冒険者はその後も新たなミッションや目標を見つけ、精進している。
 しかし姉はヘキレキ同様、他人と組んで行動するのが苦手なはずだ。そのせいもあって、一時は冒険者家業から身を引いた時期もあった。それをあえてこの冒険の世界へ戻ってきた理由は何なのだろう?
「ヘキレキ……しっかりケアルしなさいよ……むにゃ」
 このタルは、寝ててもレベル上げかい。ヘキレキはもう一度ため息をついた。
 結局、ルルカルはヴァナ・ディールというこの世界が好きなのだろう。好きだからこそ、嫌なところが目について離れることもあり、しかし好きだからこそ、戻ってきてしまう。
 ルルカルもヘキレキも、気を張らずにつきあえるのは身内の一人だけである。だからこそ、冒険のパートナーたり得るようにしたいのだろう。
 ふう。もうちょい頑張りますか。考えをまとめたヘキレキは腰を上げ──
 ごんっ、突如の後頭部への衝撃に、前へつんのめった。
 ぐるる、といううなり声。姉のいびきでは決してない。
 オークだ。しかもモンクタイプのハゲオーク。敵は両の拳を振り上げ──
「だああっ!」
 一瞬早くヘキレキは逃げ出した。
「馬鹿姉貴、さっさと起きろおおおぉぉぉ!」
 ヘキレキの叫びもむなしく、ルルカルの起きる気配は一向に無い。
 姉の起きるのが先か、ヘキレキの体力が尽きるのが先か。
 ルルカルを中心にグルグル追いかけっこ、そしてヘキレキの苦悩は果てしなく続く。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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初稿:2005/07/25
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   ルルヘキ姉弟はぐれ旅 寿司職人への険しき道
 
「あー、死ぬかと思った」
「死んでた死んでた」
 肩をコキコキ起きあがるヘキレキは、姉のルルカルにそうツッコミを入れられた。
 ルルカル・ヘキレキ姉弟は、寿司屋を開店した。
 ルルカルは調理師としてプロ級の腕前を持ち、ヘキレキは伝説魚をも釣り上げる釣り師だ。この二人の技能を生かすのに、寿司屋は最適な選択だった。
 友人のボスヤスフォート(愛称ボスやん)にドラドスシを注文されたのは先日のこと。
 ヘキレキは早速材料となるノーブルレディを釣りに、セルビナ・マウラ間の船に乗り込んだ。
 
 そして見事にシーホラー様にぬっころされたのだ。
 
 シーホラーとは航路にまれに出てくる凶悪なモンスター。レベル75に到達した冒険者でも倒すのは一苦労といわれる。
 レベル70のヘキレキではとても太刀打ちできる相手ではなかった。
 港で待機していたルルカルに蘇生魔法のレイズをかけてもらい事なきを得たが。
「てゆーか姉さんも一緒にいれば倒せてたのに」
「あたし、船に乗ると酔うから」
 ヘキレキのじと目は、しれっとかわされた。
「で、どのくらい釣れたの?」
 問われ、戦果を見せる。釣れたノーブルレディは2ダースほどだ。
「まだまだ足んないわね。あたしは握りに戻るから、しっかり釣ってきなさいよ!」
 言うだけ言い、姉はデジョン(帰還魔法)で帰って行った。
 …………。
 はう。ヘキレキはため息をつき、出発間近の船へ向かった。
 
 寿司職人への道は険しく遠い。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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初稿:2005/09/06
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   ルルヘキ姉弟はぐれ旅 チョコボのマズルカ
 
 ヘキレキは釣り好きである。
 今日も今日とてバタリア孤島でのんびりと釣り糸を垂らしていた。
 この釣り場は姉のルルカルが見つけたところだが、ミッションでやってきたパーティの大鳥戦に巻き込まれてぬっころされるというマヌケな一件以来、ここはヘキレキ専用の釣り堀と化している。
 ヘキレキは安全を期して大陸側で釣るようにしている。良識あるタルタルとして、姉と同じ轍を踏むわけにはいかない。
「【こんにちは】【ちょっといいですか?】【テレポホラ】【くれませんか?】」
 ルルカルから共通語でテルがきたのはそんなときのことだった。
「何を訳のわからんことを言っとりますか」
 ため息混じりのテルを返す。
 ちなみにヴァナディールに住む冒険者はすべからく「テル」という能力を持っている。これは、端的に言えばテレパシーのことだ。
 また、種族や所属国が同じでも、日常で使う言語が異なる場合があるため、冒険者管理組合【スクウェア・エニックス】によって共通語が設定されている。
 ルルカルとヘキレキはもちろん同じ言語を話すので、共通語で語りかけてくるというのは品のない冗談に他ならない。
「まあいいから、とにかくさっさと戻ってくるのよおらおらおら!」
 姉がおらおら口調になるときは、身内とてヘキサストライクの刑を受けかねないヤバイ状態だ。仕方なく、ヘキレキはジュノへ帰還した。
 
「というわけで、ホラまでひとっ走り飛ばして欲しいわけよ」
 頭にかぶった王冠は詩人の証。
 ジュノで待っていた姉は、吟遊詩人の格好をしていた。
「自分で飛びゃあいいのに、なんで詩人?」
「ふっふっふ、飛んでみればわかるわよ」
 意味深長な、タルタルとしては不気味な笑みに、ヘキレキはいやな予感を覚えて仕方がない。
 しかしまあ、仕方ない。ヘキレキは姉の要求通りテレポホラを唱えた。
 切り替わる景色。いつものゲートクリスタルだ。ちょっと離れたところにチョコボがいる。
「んじゃあそういうわ・け・で」
 色っぽい声でルルカルはヘキレキの耳元に顔を近づけ、こうささやいた。
「あたしの歌を聴けええぇぇーーっ!」
「だああっ、やかましい! 鼓膜が破れる!」
 前言撤回。ささやくではなく、つんざくほどに叫ぶ、だ。
 
 ちょっこぼ、ちょこちょこ、ちょっこっぼ~♪
 ちょっこぼちょこぼ~、ちょっこぼちょこぼ~♪
 はいっ!
 
 おお、この歌わ!?
 最後の「はいっ!」が謎だが、この歌は紛れもなくチョコボのマズルカ!
「よっしゃ、セルビナまで走るわよ!」
 言って姉は、タルタルには似合わない速度で走り出した。
 それをぴったり、ヘキレキが追いかける。
 まさか姉がマズルカを習得していたとは。
「レイズやテレポ以来の感動よ、これは!」
 ヘキレキはうなるしかなかった。弟へ自慢したくなるのもうなずける。
「ところでセルビナへは何しに?」
「ドージュマさんとこへニシンの塩漬けを買いに」
「なんでまたそんなもんを」
「調理ギルドへ納品するのよ」
「なるほど。自分で作らないで店売り品ですますところが姉さんらしい」
「あんた、別の方面で納得してない?」
 とか会話しているうちにラテーヌ高原を抜けてバルクルム砂丘へ突入する。
「もうすぐエプロンが手に入るのよ。そしたら次は白サブリガよ!」
 …………。
 白サブリガって、どうみてもパンツにしか見えないアレか?
 白パンツ+エプロン。
 何を考えてるんだこの姉は。
 しかし、白パンツ+エプロン。
 白パンツ+エプロンのミスラ。
 白パンツ+エプロンのヒューム女性。
 白パンツ+エプロンの以下略。
 愛らしいタルタルのヘキレキとて男の子。
 夕暮れの砂丘を疾走しながら、妙な想像をふくらませてしまうヘキレキであった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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初稿:2006/07/03
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   ルルヘキ姉弟はぐれ旅 ドラギーユ城の休日
 
 ヘキレキに割り当てられたモグハウスは、『防具箱』で埋め尽くされている。
 四六時中出かけていて、たまに帰ってくるときといえば宅配物や保管品の確認、ジョブチェンジの時くらいというのが冒険者というものではあるが、問題はこの部屋に保管されている荷物のほとんどが、姉ルルカルの私物だという現実である。
 最近は冒険者管理組合【スクウェア・エニックス】から『モグロッカー』という収納システムを提供されているが、安価ながらも維持費がかかるので、姉から使用を止められている。
 ヘキレキは白魔道士専門なのでそれほどでもないが、ルルカルは他に赤魔道士や吟遊詩人も高レベルなので荷物が多くなるのはわかる。
 わかるが、その荷物を弟に押しつけるというのはなんとかならぬものなのなのか。
 整頓されながらも何となく散逸しているような自分の部屋を眺め、ヘキレキは溜息をひとつついた。
 モーグリの悲鳴じみた声が響いてきたのはそのときのことである。
 
 ──勝手に入ってきたらダメクポ! 姉? そんなの関係ないクポ。他人のモグハウスに入ってはいけないという冒険者規約が『モーグリさんに問答無用のホーリ~!』グポァォッ!?
 
 きゅごーんっ! まさに問答無用。ヘキレキ担当のモーグリにホーリーをぶち込み、ずかずかと姉のルルカルが部屋へ上がってきた。
 
「まったく失礼しちゃうわよね。可愛いお姉様を捕まえて『他人』だなんてさ」
 黒こげになったモーグリを看病しながら、ヘキレキは溜息をもうひとつ。
 我が道を全力疾走するこの唯我独尊タル、いつか懲戒免職【アカバン】食らうのは間違いあるまい。
「しかし殺風景な部屋ね」
 誰かさんの荷物のせいで部屋を飾る余裕がないんですよ。無遠慮きわまりない姉の台詞に思わず半眼になるが、口に出すことはかろうじてこらえた。
「で、規約違反をさせてまであたしをここに呼ぶなんて、いったい何の用?」
 ヘキレキは顎に手を当て、考えた。確かに彼女を呼んだ覚えはあるが、部屋へ直接来いと言った記憶がとんと残っていないのだ。最初からそんなことは言っていないのだから残りようもない。
 まあいい。姉の歪曲した台詞へ突っ込むのは次の機会にしよう。
 ヘキレキは用件を言おうとしたが、はたと口をつぐんだ。
 さて、どう言えば良いものか。
 とりあえず、経緯から話そうか。
「ドラギーユ城のハルヴァー氏は知ってるよね」
「あのいかついおっさんよね。ミッションとかでいつも無理難題を出す困った人」
「うん。あの人から依頼を受けたんだ」
「どんなの?」
「第一王子トリオンの花嫁候補を探してるんだってさ」
「なんと、あの馬鹿王子に? そんな物好きいるのかしら」
「で、王子の好みのタイプなんだけど」
 ルルカルが口をつぐんで弟の言葉に耳を傾ける。一言一句、間違えないようにヘキレキは言った。
「赤みがかった金髪を、」
「ふむふむ」
「後ろで二つに束ね、」
「ふむふむ」
「ボリュームのあるシルエットにしている、」
「ふむふむ」
「タルタル女性が好みなんだそうな」
「ふむ」
 王子の好みのタイプを聞き、ルルカルは目を閉じてどんな姿なのかイメージしているようだ。
 ふと眉をひそめ、彼女は言った。
「なんか性悪そうな顔ね。いかにも自分の都合の良いように男を振り回しそうなタイプだわ」
 ヘキレキは彼女にいつも振り回されている男を知っている。しかも距離ゼロというごく身近なところにいる。てゆーか自分のことだ。
「けど、見たことのある顔ね。誰だったかしら?」
 首をひねる姉へ、ヘキレキは防具箱から取り出した手鏡を渡してやった。
 ルルカルはそれを覗き込み、たっぷり30秒。
「あら(はぁと)」
 あらじゃねえだろおい。
 こんなのが未来の王妃候補とは、世も末である。
 
         *
 
 支度をするから待っていろ言われ、ヘキレキは王城前で一人待ちぼうけ。
 サンドリア王国の北側地区、通称北サンド。ここにはドラギーユ城と大聖堂が並びそびえる、神聖なる区域である。
 耳を澄ませば、荘厳な音楽が聞こえてきそうな迫力だ。
 特にタルタルには、エルヴァーンの王族が住まうこの城はことさら大きく見える。
 王城の前にある噴水広場、そういやここは『あますず祭り』の時にタルタルが盆踊りをしていたな。そんなことを考えているうちに、姉が現れた。
 姉の姿を見、ヘキレキの顎が外れる。それもう、顎が地面に着かんばかりに。
「そこのあなた! あたしを美しいとおっしゃいなさい!」
 シャントット様じみたこの台詞は間違いなくルルカルである。
 しかし彼女は、見慣れたクレリクブリオーではなく、真っ白なドレスに身を包んでいた。
 これは、結婚式などで使われるオパーラインドレスだ。頭にはバラの髪飾り、リラコサージュをつけている。
 馬子にも衣装とはこのことか。
 唸るヘキレキに、ルルカルはタルタルらしからぬ含み笑いをし、
「こんなこともあろうかと買っておいたのよ」
「この前俺の金【ギル】がごっそり減っていたのはそれかあ!?」
「あんただって共同貯金でノーブルチュニック買ってんだからお互い様でしょ」
 くそー、痛いところを。
 この件を持ち出されては、ヘキレキは黙ることしかできない。
 しかし、タルタルのドレス姿というのも微妙だが、腰にぶら下げたダークモールに一抹の不安がよぎるのはなぜだろう。しかも二刀流ですよお姉さん。
 
 ルルカルはいきなり扉を蹴破り、謁見の間前の大広間に躍り出た。
「たのもー! ルルカル・アルルカン【Lurucal-Arlequin】が嫁に来たわよ! 問答無用のホーリーをぶち込まれたくなかったら馬鹿王子をすみやかに差し出すのよおらおらおら!」
 姉上、のっけからテンパリすぎです。てゆーかあんたそうゆうセカンドネームでしたか。
 何事かと立ちすくむハルヴァー氏に、いきり立つ姉をなだめつつヘキレキは取り次ぎを申し込んだ。
 
         *
 
 このあとの顛末は、第二王子ピエージェの策略にハマった冒険者の方々ならご存じであろうゆえ、ここでは省く。
 まあ要するに、ルルカルが王子の嫁に行くことなど、ヴァナディールがひっくり返ってもあり得ないということだ。
 
         *
 
「まったく、失礼しちゃうわよねー。正装までして来てやったっていうのに」
 ぷんすかと、ルルカルは風を切って歩いている。その後ろを、ヘキレキは肩をすくめてついて行っていた。
 姉弟に与えられた報酬は、それぞれに指輪がひとつずつ。見た目、ごく普通の指輪で、冒険者的にも特に有利な性能は備えていないようだ。
「こんなもん、どうしろってんだか。ヘキレキ、あんた、いる?」
「俺がもらってどうするんだよ」
 指輪を指で空中へ弾いて遊んでいる姉へ、ヘキレキは苦笑混じりに首を振った。
 この指輪は、おそらく自分の名前を彫って、意中の相手にあげなさいという意味の代物だろう。
 こんな無頓着な女では、嫁に行くなどまだまだ先のことになりそうだ。
 とか思いつつ、ヘキレキにもこれといった異性がいるわけではないのだが。
 
 この姉弟に幸が訪れるのは、果たしていつのことになるのであろうか。

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